スターバックス日本30周年記念「ザ・スター・フラペチーノ・クエスト」は、なぜこれほど巧妙なのか – 推し活・ファンダム・顧客ロイヤリティを接続する「参加型消費」の設計

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写真はどうしても飲みたかったコーヒージェリーフラペチーノにエスプレッソショットを追加したカスタム。

高校生だったかな、夏に新宿南口のサザンテラスのスターバックスでコーヒージェリーフラペチーノではじめてスタバを体験して、とても感動したのを今でも覚えています。今回の復刻版はクリームまでコーヒー味になっていて、ビターな雰囲気が大人っぽくなっていました。

ちょうど誕生日だったので、スターバックスアプリに配信されたバースデークーポンを使いました。ありがとうございます。

ただ、このフラペチーノに巡り会うまでに、ちょっとしたクエストがありました。今回の30周年復刻フラペチーノ企画では、全店舗で復刻版が楽しめるのではなく、1店舗1種類というルールがあったのです。

サクラステージでゼミがあるから、そこで飲めばいいや、なんて高をくくっていたら、サクラステージの店舗はTEAVANA店舗で、クエスト不参加。結局渋谷のサクラステージ周辺エリアでコーヒージェリーを提供しているのは、渋谷クロスタワーの店舗しかなく、そこまで足を伸ばしたのでした。

そこで少し考えた、どうでもいいことではありますが、週末なので少しお付き合いください。

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30周年記念復刻THE STAR FRAPPUCCINO QUEST(フラペチーノ・クエスト)

日本におけるスターバックスの店舗体験は、世界的に見ても極めて高水準かつ、かなり均質性の高いものです。どの街に行っても、一定の味、一定の接客、一定の居心地が期待できる。その再現性こそが、日本におけるチェーンブランドとしての信頼を作り出してきました。

ところが30周年記念のフラペチーノ企画は、その均質性をあえて崩しているため、とても興味深いものです。

過去の人気メニューを復刻するだけでなく、「1店舗1種類ずつ」という配分を導入し、さらに複数店舗を巡ってコンプリートを目指すロールプレイング型のキャンペーンに仕立てていました。

THE STAR FRAPPUCCINO® QUEST|スターバックス® リワード|スターバックス コーヒー ジャパン
フラペチーノ®1年分※の秘宝を手に入れよう。(※当社基準)30周年を彩る秘宝があなたを待っています。エントリーし、クエストに挑戦しませんか。

伝説のフラペーチーノの復刻、だけではない設計

これは単なる復刻販売ではありませんでした。商品を売る企画であると同時に、移動、探索、収集、共有、達成という一連の行為を設計し、消費そのものを参加型の体験へと変換する企画だ、と思ったのです。

しかもその体験は、推し活、ファンダム、顧客ロイヤリティという、現代のブランド戦略において重要な三つの層を一度に刺激するようにできています。

私はこの施策を、ブランドの記念企画としてだけでなく、感情と行動を結びつける非常に洗練されたゲーミフィケーションの実装として見るべきだと思います。

「復刻」ではなく「巡礼」を売っている

まず重要なのは、復刻フラペチーノそのものよりも、それをどのように、制限ある体験としたかです。

仮に過去の人気メニューを全国一斉に全店で販売したなら、それは懐かしさを喚起する販促にとどまったでしょう。2週間ごとに楽しめる復刻版が入れ替わると、より多くの人が、2週間に1度はフラペチーノを楽しみに来る、というこれまでにもあった期間限定商品の連続企画として成立します。

しかし今回は、各店舗で提供される商品が一つずつ異なるルールとなった。

すると店舗は、単なる販売拠点ではなく、「どこで何に出会えるか」が意味を持つ目的地になります。店舗網そのものが、巨大なマップになるわけです。

消費者は「近くのスターバックスで買う人」から、「どの店に何があるかを調べて巡る人」へと役割を変え、企画名通りクエストをし始めます。近隣で行ったことがないお店を訪れて、新たな発見をするかもしれません。

商品選択は空間移動と結びつき、購買は一回限りの取引ではなく連続した探索行動になります。これは、ブランドに参加するための身体性ある体験です。店に行く、見つける、飲む、記録する(自動)。

その一連の行為が、ブランドとの関係を深める儀礼として機能し始めます。

そこでこのキャンペーンを「推し活の文脈」で見直してみると、これは極めて標準的な体験、といえるかもしれません。

推し活とは、単に好きな対象にお金を使うことではなく、自分の好みや関与の深さを行動として可視化する実践だからです。巡ること、集めること、語ることが重要なのであって、対象のモノ自体だけが中心ではない。

スターバックスは、この実践の形式をかなりよく理解しているように見えます。

推し活の文法で、商品を「人格化」する

各フラペチーノが色分けされていて、ちょっとアイドルっぽい演出がなされていますよね。ほうじ茶とコーヒージェリーの色がちょっと似てますが……。これもとても示唆的だと思いました。

推し活が成立するには、対象が単なる商品以上の存在になる必要があります。物語、役割、呼び名、そして感情移入の余地が必要です。

今回の復刻フラペチーノは、味の異なる飲料として並んでいるのではなく、それぞれに記憶や時代性、象徴性を帯びた存在として再提示されています。消費者は、単に「どれが一番おいしいか」を選ぶのではなく、「自分はどれに思い入れがあるか」「どれを推したいか」という関係性の中で選ぶことになります。

各メニューがブランド史の一部、ある時代の空気、あるいは個人の記憶と接続された“語れる対象”になります。伝説を辿る巡礼、と言うコンテクスト。

人は、自分が何を好きかを語るとき、単なる味覚の好み以上のものをそこに乗せます。学生時代に飲んだ、初めての限定メニューだった、誰かと一緒に飲んだ。そうした記憶の層が重なることで、一杯のフラペチーノは「推せる対象」へと変化します。

しかもこの企画は、報酬設計にもその文法を持ち込んでいます。

値引きやクーポンだけでなく、当時のBGMや記念的なデジタルアイテムのように、記憶と関係性を強める報酬が置かれている点は示唆的です。推し活において重要なのは、経済合理性ではなく、「関わった証拠」と「気持ちの継続」であり、コレクト性がある宝箱の中身、というドラクエ的文脈も備わります。

スターバックスは、そのことをよく分かったうえで、報酬を単なる割引に閉じ込めていません。

ファンダムは、所有ではなく「共有可能な体験」から生まれる

ファンダムの観点からさらに興味深いのは、この企画が個人の購買体験を、そのまま共有可能なストーリーへと変換していることです。ファンダムは、熱心な消費者の集まりというより、共通の対象について語り合い、情報交換し、達成を承認し合う関係の束です。そこで重要になるのは、対象そのものよりも、参加のプロセスがどれだけ共有しやすい形になっているかです。

ロールプレイング型の設計は、その点で非常に強いコンテクストを提供してくれます。クエスト、マップ、達成、コンプリートという言葉は、現代のユーザーにとって極めて理解しやすい文法です。

人はその文法を前にすると、自然に進捗を確認し、次の目標を意識し、達成した事実を誰かに伝えたくなります。つまり購買行動が、物語の進行へと翻訳されるのです。この翻訳があることで、「買った」という事実は、「クエストを進めた」という出来事になります。出来事は共有されやすく、共有されることで共同体的な熱量を帯びます。

特に巧妙なのは、スターバックスがこの共同体的熱量を、あからさまなコミュニティ運営ではなく、制度設計によって生み出している点です。

ファン同士が自然に店舗情報を交換し、進捗を比べ、どれを飲んだかを語り合う状況が生まれるのは、キャンペーンがそうした行動を誘発する構造を持っているからです。ブランドが直接すべてを演出しなくても、参加者が自ら世界観を補完していく。これは成熟したファンダム設計の特徴です。

顧客ロイヤリティを、感情だけで終わらせない

この企画がさらに優れているのは、感情的な盛り上がりを、きちんと自社のロイヤリティ基盤へ接続していることです。好意や話題性だけでは、企業の側に資産は残りません。

重要なのは、その盛り上がりを会員ID、決済、アプリ利用、再訪頻度といったかたちで蓄積可能な関係へ変換することです。

今回の仕組みでは、進捗管理や達成体験が会員基盤の上に置かれています。ここでブランドは、単なる一過性の話題を、継続的な顧客接点へと変えています。マーケティング論の言葉でいえば、態度的ロイヤリティと行動的ロイヤリティが丁寧に接続されている。

好きだと思う気持ちを高めるだけでなく、その好意をアプリ確認、会員利用、再訪、追加購買へと変換する回路が設計されているのです。

しかも、この施策は「大量に買わせる」方向には寄っていません。同じ商品を何度も買うことより、異なる店舗や異なる種類に出会うことが意味を持つ設計になっています。短期売上の最大化ではなく、ブランドへの関与密度を上げることが主眼だからです。

言い換えれば、購買量ではなく関与の質を高めるロイヤリティ施策になっていて、ここにスターバックスらしい品の良さがあります。

もっとも巧妙なのは、「難しそうに見えて、届きうる」クエストの難易度設計である

ゲーミフィケーションが失敗しやすいのは、難易度調整です。簡単すぎれば達成の意味がなくなり、難しすぎれば大半の人が離脱します。

この企画は、その中間をかなりうまく取っていると思いました。ちょっと足を伸ばせば良いレベル。

表向きの物語は、伝説のフラペチーノを探しに行く冒険です。しかし実際の達成条件は、コアファンだけが楽しめるほど閉じてはいない。世界観は濃く、制度はやや開いている。この二層構造が、参加の間口を狭めず、同時に熱量の高い人には十分な達成感を与えています。

コアなファンでなくても、店舗ごとに異なるフラペチーノに気づく、発見性が楽しめるでしょう。

ここには、現代のブランド施策にとって重要な含意があります。強いファンだけを喜ばせる設計では市場が狭くなります。しかしあまりに万人向けにすると熱量が生まれにくい。今回の企画は、その両立を図っているのです。

コア層には「完全制覇したい」という収集欲を与え、ライト層には「少し頑張れば自分も参加できる」という到達可能性を残す。このバランスの取り方はかなり洗練されています。

ただし、この熱量は移動可能性に依存する

もっとも、この企画に弱点がないわけではありません。1店舗1種類という設計は魅力的である一方、都市部と地方、あるいは自由に移動できる人とそうでない人の間で、参加しやすさに差が生まれます。

例えば、周辺にスターバックスが複数店舗内地域では、おそらく1つの味しか楽しめないまま、キャンペーンが終わるでしょう。そうでなくても、店舗網が薄い、5店舗が揃わないエリアの場合、クエストの難易度は跳ね上がります。

iU大学がある押上周辺も、スカイツリー周辺に3店舗しかなく、しかもクエストに参加しているのは2店舗です。他の味を楽しむには錦糸町まで足を伸ばさなければなりません。錦糸町は5店舗揃っていて、全味楽しめる駅なのですが。

つまりこの施策は、消費者の「移動資本」に依存している面があります。熱量の高い企画ほど、その熱量を実行できる条件を「誰が持っている」かという問題が浮かび上がります。

この点は、ファンダムの包摂性という観点から見れば課題です。参加できること自体が一種の特権になってしまうと、ブランドへの愛着は高まる一方で、疎外感も同時に生まれうるからです。

ただし、30周年という限定的な節目の企画として考えるなら、この種の偏りはある程度「祭りの不均衡」として受け入れられたり、5つの味を楽しみに行く冒険「フラペチーノ・ツーリズム」が発生する可能性もある。

まあ、記念企画としては許容範囲に収めたとも言えます。

スターバックスは、商品ではなく「関係の設計」を売った

総じて見ると、この30周年企画の優秀さは、復刻メニューを話題化したことにあるのではありません。ブランドの歴史、商品の記憶、店舗網、会員基盤、報酬設計、そしてユーザーの自己表現欲求を、ひとつの参加体験として編み上げたことにあります。

推し活の文法で商品に感情移入を起こし、ファンダムの文法で共有と収集を促し、ロイヤリティ施策の文法でその熱量を自社の顧客基盤へ回収する。そこにこの企画の戦略的な巧妙さがあります。

スターバックスは、コーヒーチェーンであると同時に、都市生活のリズムや気分を設計してきたブランドでもあります。

そのブランドが30周年という節目に選んだのが、「懐かしい一杯を再販すること」ではなく、「一杯を探しに行く物語を作ること」だった。現代のブランド価値は、モノの所有だけでなく、関係の深さと参加の実感によって成立する。

そのことを、この企画はかなり鮮やかに示しています。

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