この論考は、iU大学の松村ゼミで2026年7月2日に、ゼミの卒業生であり、現在はマツムラボのディレクターでおなじみのうりゅー氏と行った議論をもとにしています。
AIの利用料:月に3,000円前後。
ノートPCやタブレットなどのデバイス:4年に1回、20万円から30万円弱
スマートフォン本体と通信費:毎月数千円から1万円弱。
もちろん、これは家庭によって違います。無料のAIもありますし、安い端末もあります。中古PCやChromebook、学校の端末で十分に始められる場合もあります。
ただ、議論していて引っかかったのは、個々の価格ではありませんでした。
いま起きているのは、AIを使って学び、調べ、作り、発信し、場合によっては収益化するための基礎コストが、家庭の固定費として見え始めているということです。
「ガジェットが高い」「通信費が高い」「AIに課金するべきかわからない」という種類の話ではありません。どちらかというと、これらは必須の環境設定となって、これからの子どもたちにとって、AIとデバイスは、学習環境そのものになっていく、という見通しに立った上での議論でした。
GIGAスクールの「先」に、もう一度デバイドがやってくる
小中学校では、GIGAスクール構想によって、1人1台端末の環境がかなり整いました。
これは大きな前進でした。家庭の所得や親のITリテラシーにかかわらず、少なくとも学校の中では、子どもがデジタル端末に触れる機会が生まれたからです。しかし、その先に問題があります。
高校、大学、そして社会人の入り口に進むと、端末やAIの利用環境は、急に本人や家庭の負担になりやすくなります。
小中学校までは、学校が用意してくれていた。ところが、より深く学ぶ段階、より自分で調べる段階、より自分で作る段階に入った瞬間に、PC、AI、通信環境の差が表面化する。
ここに、次の教育格差の焦点があります。
いままでは「パソコンを持っているかどうか」がデジタルデバイドでした。これからは、もう少し複雑になります。しかしこれからは、AIを使えるか。AIに課金できるか。AIを学びに使えるか。AIで作ったものを、自分の言葉や成果に変えられるか。そして親や学校が、その使い方を理解しているか。
ここまで含めて、格差が生まれていきます。
スマホだけで十分、とは言い切れなくなる
ここで誤解したくないのは、「高いPCを買わなければ子どもは遅れる」と言いたいわけではない、ということです。スマートフォンだけでも、AIはかなり使えます。
英語の発音練習。
文章の要約。
調べもの。
作文の壁打ち。
面接練習。
画像や音声を使った学習。
移動中の復習。
むしろ、AIの入り口としてはスマホの方が自然です。ただし、学ぶだけではなく、作る段階に進むと話が変わります。
レポートを書く。
動画を編集する。
資料を作る。
コードを書く。
ブログを運営する。
SNSを分析する。
データを整理する。
小さな仕事を受ける。
自分のプロジェクトを形にする。
こうした作業では、まだPCの方が圧倒的に有利です。つまり、スマホはAI時代の入口になります。しかし、PCはAI時代の作業場になります。
この違いを見落とすと、「スマホがあるから大丈夫」と思っているうちに、子どもが制作や発信の経験を積む機会を逃してしまうかもしれません。そして今直面している問題は、そうしたクリエイティブツール、学びのツールとしてのPCが、メモリ高、円安のダブルパンチで非常に高騰している、という点です。
問題は「AIを使わせるか」ではなく、「どう使って学ぶか」
AIを子どもに使わせることに、不安を感じる親や先生がいるのは当然です。
答えを丸写しするのではないか。
考える力が落ちるのではないか。
個人情報を入れてしまうのではないか。
間違った情報を信じてしまうのではないか。
著作権や引用の感覚があいまいになるのではないか。
どれも重要な懸念です。
だからこそ、必要なのは単純な禁止ではありません。むしろ、使い方を教えることです。これは、インターネットが学びに入り込む時と同じ構造であり、いかにうまく使うか?という部分を教育に組み込むことで、一度は乗り越えてきたことだったはずです。
AIを使ってはいけない、と言うだけでは、子どもはAIとの付き合い方を学べません。
そして現実には、使う子は使います。家庭で使う子もいれば、友人同士で使う子もいます。無料サービスで試す子もいます。親が知らないところで使う子もいるでしょう。そのとき、差がつくのは「使ったかどうか」ではありません。
AIに答えを出させるだけで終わるのか。AIに説明させ、反論させ、練習問題を作らせ、自分の理解を深めるのか。AIに任せる部分と、自分で考える部分を分けられるのか。ここが、本当のリテラシーになります。
AIについて家庭や学校はきちんと伝えて、体験するチャンスを活かして、あるいは失敗を経験しているかどうか。みなさんの家庭や学校では、どうでしょうか?
AI時代の教育格差は、所得だけでは決まらない
もちろん、お金の問題はあります。
月額AIサービスに課金できる家庭と、できない家庭。PCをすぐに買える家庭と、そうではない家庭。通信費を気にせず使える家庭と、そうではない家庭。この差は無視できません。
しかし、格差は所得だけで決まるわけでもありません。
高価な端末があっても、AIを学びに使う習慣がなければ、ただの高い道具です。一方で、無料版のAIとスマホだけでも、親が使い方を理解し、子どもと一緒に試していれば、相当な学びができます。つまり、これから問われるのは、家庭の中にAIを学びに変える文化があるかどうかです。
これを私は、「家庭内AIインフラ」と呼んでもいいと思っています。
インフラというと、回線や端末のことを想像しがちです。しかし本当に必要なのは、端末だけではありません。
AIをどう使うかを話せる親。
子どもが試してよい時間。
間違った答えを一緒に確認する習慣。
提出物に使うときのルール。
調べる、書く、作る、発表する、という流れ。
こうしたものが、家庭の中にあるかどうかです。
親がこれからすべきこと
では、親は何をすればいいのでしょうか。
まず必要なのは、子どもに使わせる前に、親自身がAIを少し使ってみることです。完璧に理解する必要はありません。プロンプトの達人になる必要もありません。
- 今日の献立を相談する。
- 旅行の予定を立てる。
- 仕事のメールを整える。
- 子どもの読書感想文のテーマについて、問いを作らせる。
- 英検や定期試験の練習問題を作らせる。
その程度で十分です。
重要なのは、親が「AIは魔法でもズルでもなく、使い方によって学びを助ける道具なのだ」と体感することです。
次に、家庭のデジタル費用を教育費として見直すことです。
スマホ代、通信費、PC、タブレット、AIサービス。これらをバラバラの出費として見るのではなく、子どもの学習環境を支える費用として棚卸しする。いきなり高額な端末を買う必要はありません。無料版AIから始めてもいい。中古PCでもいい。学校端末をどう活用できるか確認してもいい。兄弟で共有する期間があってもいい。
ただし、「いつか必要になったら考える」では遅れる可能性があります。中学生から高校生、高校生から大学生に上がるタイミングで、制作端末とAI利用環境をどう用意するか。ここは、家計の中で早めに考えておくべきテーマになります。
三つ目は、AIの家庭ルールを作ることです。
- AIに丸投げして、提出物をそのまま出さない。
- AIに個人情報や友人の情報を入れない。
- AIの答えは必ず疑う。
- 引用や出典が必要なものは、人間が確認する。
- AIは「答えを出す機械」ではなく、「考えるための相手」として使う。
- 勉強では、説明、例題、反論、添削、復習に使う。
こうしたルールを、親が上から押しつけるのではなく、子どもと一緒に決めていくことが大切です。
四つ目は、学校の方針を確認することです。
- 学校がAIをどう扱っているのか。
- 禁止なのか、授業で使うのか。
- 提出物でどこまで許されるのか。
- Google WorkspaceやMicrosoft 365などの学校アカウントでAI機能が使えるのか。
ここは学校によって差が出ます。
もし学校が慎重な方針を取っているなら、その理由を理解する必要があります。同時に、家庭ではAIリテラシーを補う必要があります。
学校で禁止されている提出物に、AIを使わせるべきではありません。しかし、家庭でAIを使って英語を練習したり、歴史の流れを説明させたり、数学のつまずきを確認したりすることまで止める必要はありません。
大事なのは、学校のルールを守りながら、家庭で学び方を更新することです。
「使わないリスク」を考える段階に入った
ここまで来ると、親が向き合うべき問いは変わります。
AIを使わせると危ないのか。
もちろん危ない面はあります。しかし同時に、AIを使わないことにもリスクがあります。
AIを使って、自分で教材を作れる子。
AIを使って、苦手分野を何度も説明してもらえる子。
AIを使って、英語で発信する練習をする子。
AIを使って、動画や記事やアプリを作り始める子。
AIを使って、小さな仕事やプロジェクトに挑戦する子。
そうした子どもたちは、学校の授業だけでは得にくい学習経験を積み始めます。これは、すぐに収入の差になるという単純な話ではありません。しかし、学び方の差、作る経験の差、発信する経験の差、試行錯誤する速度の差にはなっていきます。
そして、その差は数年後に、進路や職業選択の差として見えてくる可能性があります。
親が恐れるべきなのは、AIそのものではない
親が恐れるべきなのは、AIそのものではありません。
AIを知らないまま、子どもに「使うな」と言うことです。あるいは、AIを便利な答え合わせ機械としてだけ使わせてしまうことです。そして、家庭の中でAIについて話す機会がないまま、子どもだけが勝手に使い始めることです。
AI時代の教育格差は、ある日突然、目に見える形で始まるわけではありません。最初は、ちょっとした違いです。
調べものが速い。
文章を書くのが苦ではない。
英語の練習相手がいる。
苦手な数学を何度も説明してもらえる。
発表資料を作るのがうまい。
自分の興味をプロジェクトに変えるのが早い。
その小さな差が、積み重なっていきます。だからこそ、親がいまやるべきことは、高い端末を急いで買うことではありません。
AIを家庭の中で話題にすること。
親自身が少し使ってみること。
子どもと一緒に、使い方のルールを作ること。
スマホ、PC、AIの役割を整理すること。
そして、子どもがAIを使って「答えをもらう」のではなく、「自分で学び、自分で作る」方向へ導くことです。
これは、教育のデジタル化の続きではありません。AIによって、家庭の学習環境そのものが変わり始めている、という話です。
次の格差は、端末を持っているかどうかだけでは決まりません。AIを使って学ぶ文化が、家庭の中にあるかどうか。
そこが、これから数年の大きな分岐点になります。最も大切なことは、AIの進化を、子どもの成長のブーストとして機能させること。
その体制が取れているかどうか、今一度考えてみる必要があります。
親向け提言のまとめ
- まず親がAIを使ってみる
子どもに使わせるかどうかを判断する前に、親が日常の相談、要約、問題作成、作文の壁打ちなどで試す。 - AIと端末を教育費として棚卸しする
スマホ代、通信費、PC、AI課金を「娯楽費」ではなく、学習と制作のインフラとして考える。 - スマホとPCの役割を分ける
スマホはAI学習の入口。PCは制作、編集、発信、収益化の作業場。どちらか一方で全てを済ませようとしない。 - 家庭内AIルールを作る
丸投げしない、個人情報を入れない、AIの答えを疑う、出典を確認する、提出物では学校のルールを守る。 - 学校任せにしない
学校の方針を確認しつつ、家庭ではAIを学習支援、復習、探究、表現の道具として使う経験を積ませる。