新しいシステムを導入すると、「触れば慣れる」「わからなければ検索すればよい」という声が出ます。
確かに、試行錯誤は必要です。しかし、使える端末、通信、言語、視覚や聴覚への配慮、質問できる人、練習する時間がなければ、努力の前提がそろいません。
使えない人を意欲不足と呼ぶと、設計側の問題が見えなくなります。
同じ画面を配っても、同じ入口にはならない
スマートフォンで使えるから、誰でも利用できるとは限りません。
小さな文字を読みにくい。音声だけの説明を聞けない。キーボード操作が必要なのに対応していない。専門用語が多い。本人確認に使う書類がない。通信量に余裕がない。勤務時間中に研修を受けられない。
一つの障壁は小さく見えても、重なると利用を断念します。
欧州委員会のDigComp 3.0は、デジタル能力を論じる際に、機器、接続、アクセシビリティなどの前提条件と、デジタル排除への配慮を示しています。能力は個人の内側だけにあるものではありません。
本人を訓練する前に、仕事を観察する
「研修を追加すれば解決する」と考える前に、利用者がどこで止まるかを見ます。
ログインできないのか。用語がわからないのか。操作を間違えると戻れないのか。複数のシステムへ同じ情報を入力しているのか。質問すると評価が下がると感じているのか。
画面を共有し、本人に操作してもらいながら、止まった場所を記録します。説明する側が代わりにクリックすると、障壁が消えたように見えるので注意します。
困りごとを、個人の弱点ではなく、改善できる接点として扱います。
例外対応を、人の善意だけに任せない
詳しい同僚が毎回助ければ、目の前の仕事は進みます。しかし、その人が不在になると止まり、支援する側の負担も見えません。
読み上げやキーボード操作へ対応する。平易な言葉の手順を用意する。電話や対面など別の経路を残す。練習用の環境をつくる。問い合わせの記録から、よく止まる箇所を直す。
合理的な配慮や支援を、正式な運用へ入れます。
すべての人へ同じ方法を強いるのではなく、同じ目的へ複数の経路を用意します。
包摂は、支援対象だけの利益ではない
字幕は、聴覚に障害のある人だけでなく、音を出せない場所や第二言語で学ぶ人にも役立ちます。明確な見出しや戻れる手順は、初心者にも、急いでいる人にも役立ちます。
誰か一人の障壁を調べると、全員にとって曖昧だった設計が見えます。
「努力すれば使いこなせる」が危険なのは、努力を否定するからではありません。努力できる条件を組織が用意せず、結果だけを個人の責任にするからです。
今日からの一つの行動
新しい道具で困っている人を一人選び、操作を教える前に「どの画面の、どの言葉や動作で止まるか」を本人の操作で一度観察してください。

出典
- European Commission, Joint Research Centre, “DigComp 3.0,” 2025, https://joint-research-centre.ec.europa.eu/projects-and-activities/education-and-training/digital-transformation-education/digital-competence-framework-digcomp/digcomp-30_en
- OECD, OECD Skills Outlook 2025, 2025, https://www.oecd.org/en/publications/oecd-skills-outlook-2025_26163cd3-en/full-report/how-learning-evolves-across-the-life-course_7abab55b.html
- OECD, Digital Skills and Digital Inclusion, 2026年7月28日確認, https://www.oecd.org/content/dam/oecd/en/about/projects/cfe/oecd-city-network-on-jobs-and-skills/Briefing-note-Digital-skills-and-digital-inclusion.pdf