2024年3月13日に、iU 情報経営イノベーション専門職大学の研究所「B Lab」主催の年次イベント「iUマルシェ」が開催されました。iU Cafeには全国各地で研究活動をしている方々200人が集まり、お互いのプロジェクトの紹介や交流が行われました。
プロジェクトを持っている教員や学生もブース出展できると言うことで、iU 松村太郎研究室からも、食に関するプロジェクト「iU Future Eats」から、急速冷凍の糀発酵スムージーを出展しました。
iU Future Eatsプロジェクトとは
ゆるやかな食のオープンイノベーション
完全にフードデリバリーのもじりではあるのですが……。こちらは食のオープンイノベーションを目指す緩やかなプロジェクト「iU Future Eats」です。
iUは間もなく開学5年目を迎える新しい大学で、カルチャーや名物などがない4年間を過ごしてきました。その中でも、食については、何とかしたいと考える学生が多くいました。
教員・学生の忙しさと住宅地という周辺地域も含めて、ランチ・おやつ・夕食・夜食がセブンイレブン頼りになりがち。さすがに百戦錬磨のビジネスパーソンから教員になられた方々に、研究室でカップラーメンをすすらせたらマズイだろう、ということでスタートさせたプロジェクトです。
食のビジネスが成立しにくい事情
その一方で問題は、食のビジネスが成立しにくい環境。
コロナ以降、学生の登校が曜日ごとに最小限に制限されていること、学生全員が食堂を利用するわけではなく、フードロスの観点から強気の展開ができないこと、積極的に外部の顧客を獲得する仕組みになっていません。
そのため食堂の営業時間はランチタイムの2時間に限られています。そうした中でも、現在の食堂の皆さんは、趣向を凝らして何とか楽しませようとしてくれて、食の環境の維持に努めて下さっています。
フードテックで解決できないか?
急速冷凍技術による「食と時間」の問題解決
テクノロジー、ビジネス、グローバルの3つの柱で学ぶiUにおいて、食の問題をテクノロジーで解決できないか?と検討を始めた中で出会ったのが、千葉県を中心にエネルギー関連のビジネスを展開しているISGの「freeze-labo」。
「ナノフリーズ」といわれる液冷式の急速冷凍機を用いて、冷凍食品や食の流通の限界を突破しようとしている、未来の食の実験室です。
通常の冷凍は水分が凍る速度がゆっくりであることから、緩慢冷凍といいます。これに対して急速冷凍は、水分を一気に凍らせるため、細胞壁を壊さず、食感や色、味などを保持し、また解凍した際のべちゃっとした状態を回避することにもつながります。
この急速冷凍技術を用いることで、食と時間にまつわる問題を解決できます。
一つはフードロス。
フードロスは、せっかくの食材や料理が時間経過によって食べられなくなり、廃棄されてしまう問題です。裏を返せば、時間を止めれば、新鮮な状態で保つことができます。
二つ目は、オンデマンド性。
前述の通り、iUの食堂はランチタイムの2時間の営業。土日は基本的に休み、今日みたいな授業がない日も休みです。そのため、授業がある平日の2時間しか、ビジネスができないのです。
そこに急速冷凍を活用する事で、ランチ営業のために仕込んだ食材を凍らせて、自販機で販売することで、営業時間外でも売上を作ることができるようになります。学生からすれば、営業時間が外れても、食堂の食事がいつでも楽しめるというメリットがあります。
解凍する前提での調理という圧倒的なノウハウ
freeze-laboを体験して気づいたことは、「単に凍らせれば良いわけではない」ということ。
特に完成品の料理なので、冷凍して溶かすときの再加熱や、提供方法も考慮に入れて料理をしなければならないという苦労があるそうです。
火加減や、風味をいかに残すか?という部分で、工夫が必要で、freeze-laboでは施策を繰り返しながら、様々な食材や料理の最適な急速冷凍法のノウハウを蓄積していました。
また、提供前の解凍にもバリエーションがあり、自然解凍、流水、温水、電子レンジ、スチームなど、料理に合わせた最適な方法を選んで行くことが重要だそうです。我々の身の回りにある冷凍食品は電子レンジが基本だし、フリーズドライやカップ麺はお湯を注ぐパターンばかりなのですが、それだけではないのですね。
急速冷凍の糀発酵スムージー
iUマルシェでの出店
今回のiUマルシェでは、急速冷凍技術でiUでの食が多彩で健康的になる、ということを念頭に、スムージーを参考出展しました。
急速冷凍技術のfreeze-laboだけでなく、iU Future Eatsでは、様々な食に関連するビジネスとコラボレーションをしています。
山梨県のスーパーマーケット・いちやまマートのプライベートブランド「美味安心」は、健康的な食生活を身近にする事をコンセプトにしており、着色料や保存料などを使わず、美味しさを引き出す昔ながらの製法を商品化する独自の価値を作り出しています。
その中でも、今回は、国産コシヒカリをつかった甘酒という、優しい甘さの発酵食品にインスパイアを受けました。
そこで、やはりコラボレーションしている発酵のプロ、一般社団法人 日本糀文化協会の代表理事 大瀬由生子さん、理事 川浦智子さんによる甘酒を用いたスムージーのレシピを作りました。
これを急速冷凍したのが、今回の「糀発酵スムージー」。色や風味、味はそのままに、長期保存ができ、飲みたいときに解凍して楽しめる手軽さが、大学のキャンパスで楽しめたらどうでしょう?というプロトタイピングでした。
スムージー経験者なら誰でも分かる、あの手間
スムージー経験者であれば、誰でも共感頂けるのではないかと思うのですが、毎日スムージーを週間にしようと思うと、結構手間がかかるものです。
- 自分好みの味を見つける工夫
- 飽きないように食材に変化を付けていく工夫
- できれば朝飲みたいけど、忙しい朝はちょっと……
- 落としにくいミキサーの食物繊維
これはスムージー屋さんにとっても同じで、7種類を用意しようとすると、それぞれに用いる食材を毎日揃えなければならず、ミキサーも7台必要になり、上記の手間が7倍に膨れあがります。その上、売れ行きによってロスが出てしまい、せっかくの食材が無駄になってしまう……。
急速冷凍技術だと、ワークフローが全く変わります。
仕込みは1日1種類ずつ。連続して大量に作り、急速冷凍保存すれば良くなり、非常に効率的になります。ミキサーの数も、洗い物も、フードロスも解消されながらも、バラエティに富んだスムージーを提供できるなら、前述のiUの学食のビジネスが成立しにくい環境を乗り越えられます。
スムージーの美味しさとともに、ビジネスモデルにも興味
iUマルシェにご来場の皆様にお試し頂きましたが、皆様から美味しい!というフィードバックをいただき、とても嬉しかったです。ありがとうございます。
それだけでなく、iUの食堂が急速冷凍付きのゴーストキッチンとして、iUの学生や周辺の飲食店を結ぶ食のプラットフォームになるという未来像についても、共感頂けた点も大きな収穫です。
特に、
地方創生の武器になるのではないか?
消えゆく食文化を持続させる手段になるのではないか?
という示唆も頂きました。今後のプロジェクトにそうしたご意見も取り入れていければ、と思っております。
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