2025/05/22 19:00-から、渋谷サクラステージにあるBusiness Airport Shibuya Sakura Stage / 渋谷ウェルセンターで、iU渋谷サクラステージゼミの第3回セッションが開催されました。
今回のテーマは「妄想学:仕事に遊び心と心理的安全性でアイデア発想を取り入れる方法」。
動画アーカイブは、こちらからご覧頂けます。

「一般社団法人妄想からアイデアを創造する協会(通称:妄想協会)」の理事・事務局長を務めるワークショップデザイナー相内洋輔さん(iU大学客員教授)を講師にお迎えし、私たちの中に眠るアイデア発想の力をどう引き出すか、そしてそれを組織や人生にどう活かすかについて、深く、そして楽しく掘り下げていきました。
オンライン参加の方々も含め、多くの方が集まり、活発なセッションとなりました。
なぜ今、アイデアが重要なのか?

セミナーは、現代社会が工業社会から知識社会へと変化しているという認識から始まりました。過去の工業社会では、効率化と標準化、そしてトップダウンの意思決定が成功の鍵でした。しかし、多様性と変化が加速する知識社会では、「現在の縛られないアイデアを大量に競争できるか」が企業や組織の競争力を左右します。
リーダーシップも自律分散型が求められ、フラットな関係性の中での対話や、組織を超えた繋がりが重要になっています。
しかし、現状はどうでしょう?特に日本では、小学校の頃から「正解を求める授業」が中心で、正解のない問いに対する発想力が育まれにくい環境があるのかもしれません。
NASAの有名な調査では、5歳児の95%が創造性テストをパスしたのに対し、30歳の大人はわずか5%しかパスできなかったという衝撃的な結果があります。これは、学びが増えれば増えるほど、クリエイティビティやアイデアがしぼんでいく可能性があるという仮説を示唆しています。
相内氏はこの課題に対し、「アイデアを取り戻し、組織を元気にしていく方法」を「妄想学」として提唱・実践しています。
妄想協会とアイデア発想の「Mouma」
相内氏が関わる「妄想からアイデアを創造する協会」は、「人々の知的生産をトリガーにしたい」という想いから、アイデア競争の手法やスタンスを分かりやすく、楽しく伝える活動をされています。その主なサービスがワークショップ形式のプログラム「Mouma」です。
「Mouma」は、心理的安全性が高い空間で、参加者が自由にアイデアを出し合い、そこから生まれる面白い「新結合」を体感することに重点を置いています。
ワークショップは通常2~3時間程度で、ウォーミングアップで心理をほぐし、専門サイトにアイデアを入力、最後にアイデアをブラッシュアップするという3つのステップで進められます。
このサイトに入力されたアイデアは匿名で共有されるため、「何を言っても大丈夫なんだ」という安心感の中で、次々とアイデアが生まれるのです。
実際に大学の授業で「リラックスできるアイテム」というお題でアイデア出しを行った際には、30人で3ラウンド(計20分少々)で470個ものアイデアが生まれたそうです。
中には、「友達になってくれる自動販売機」といったユニークなアイデアも生まれました。これは、既存の「自動販売機」というキーワードと、「話を聞いてくれる犬型ロボット」のようなアイデアの種が掛け合わさった、まさに「新結合」の事例です。
アイデア発想を「量」から捉える

アイデア発想において最も強調されたのが、「とにかく量を出す」ことの重要性です。
世の中に数多くあるアイデアに関する書籍も、例外なくこの「出力量」の大切さを説いています。高橋晋平氏の著書「アイデアが枯れない頭の作り方」では、「いいアイデアを思いつかなくてもいい、ダメなアイデアを出し続けられればそれでいい」と述べているほどです。
なぜ量が重要なのでしょうか?アイデアは「連想ゲーム」のようなものであり、何も取っかかりがないところからは生まれにくいからです。
どんなくだらないアイデアでも、まずは一つ出すことで、それが次の連想の取っかかり(トリガー)となります。この取っかかりが増えれば増えるほど、アイデアを遠い世界まで転がしていくことができるのです。
これを体感するために、ワークショップで行われたのが「ペットボトルは何に使える?」というワークです。
参加者は自由に、ペットボトルを使ったアイデアを考え、共有しました。キャップに穴を開けてじょうろにする、ボーリングのピンにする、といった身近なものから、防弾チョッキ、寺社仏閣、凍らせてお弁当の保冷剤兼めんつゆ代わり、さらにはベッド、いかだ、生卵の黄身だけを吸うスポイト、スマホのズームレンズ など、突拍子もないアイデアまで様々生まれました。
重要なのは、このワークでは「実現できるかどうか」「役に立つかどうか」は一旦置くことです。
くだらないアイデア、恥ずかしいアイデア、実現が難しいアイデアも出すことで、連想の幅が広がり、「抽象化すると次のアイデアの呼び水になる」のです。
例えば「防弾チョッキ」は「何かを防ぐもの」、「寺社仏閣」は「建物を建てる」といった抽象的な概念に繋がり、さらに発想が広がります。
このワークを通じて、参加者は「こんなに意見を言えるんだ」「いろんな視点があるんだ」という気づきを得て、場の空気は和気あいあいとしたものになりました。
相内氏は、チームが活発に動いているほど多くのアイデアが出ると指摘し、逆に「みんなの顔色を伺いながら」行われるブレストではアイデアが伸び悩む現状に触れました。
正解らしきアイデアしか出せない組織では、常識の範囲から外れた面白いアイデアが生まれにくく、結果として施策も小粒になりがちだというのです。
新結合を生む「異質性」の力

アイデアは「既存の要素の新しい組み合わせ(新結合)」であると定義されます。相内氏はその好例として、チョコレートとGABAを組み合わせた「メンタルバランスチョコレート」や、携帯電話・音楽再生・インターネット・カメラなどを結合した「スマートフォン」を挙げました。
そして、面白い新結合を生むには「異質性」が非常に重要だと強調しました。
自分とは異なる知識や経験を持つ人同士がディスカッションすることで、近いもの同士の組み合わせ(「それもうあるよね」となるアイデア)ではなく、「それ今までなかった!」という驚きのあるアイデアが生まれやすくなります。
異質性の掛け合わせの事例として紹介されたのが、ゲーム「ウマ娘」です。「アイドル」と「競馬の育成ゲーム」という、一見かけ離れた要素を組み合わせたことで、大きなヒットに繋がりました。これは、同質性の高い人々の集まりでは生まれにくい発想だと言えるでしょう。
相内氏は、年代間ギャップのような社会課題も、アイデア発想の観点から見れば「課題ではなくチャンス」だと語ります。分かり合えないほど遠い存在だからこそ、それぞれの価値観や経験を掛け合わせたときに、面白いアイデアが生まれる可能性があるのです。
そのためには、「この違いを楽しむスタンス」を組織に浸透させること、そして出したアイデアとそれを出した「人格」を分離することの重要性を強調しました。アイデアを否定されたときに「自分自身が否定された」と感じてしまうと、次の意見が出せなくなるからです。
さらに、面白いアイデアに「乗っかる」「触発の連鎖」をデザインすることも、アイデア発想を加速させる鍵となります。
アイデアを生み出す土壌「心理的安全性」
自由にアイデアを出し、異質なものと組み合わせるためには、土台となる「心理的安全性」が不可欠です。心理的安全性とは、「このチームでは、自分の無知、無能、邪魔者、ネガティブといった側面を見せても、誰も自分を罰したり否定したりしない」という安心感のことです。
これは、Googleが自社組織の研究(Project Aristotle)から見出した、パフォーマンスの高いチームに共通する最も重要な要素でした。
心理的安全性が低いチームでは、「こんなことも知らないのか」「なんでできないんだ」「空気読めよ」といった叱責や否定が横行し、メンバーはありのままの自分を出せなくなります。その結果、ミスや困難な状況を隠してしまい、改善のための会話が生まれません。
一方、心理的安全性が高いチームでは、知らないことを質問でき、失敗しても大丈夫だと感じ、仕事の結果をオープンに共有できます。これにより、建設的なディスカッションが生まれ、新たな行動やアイデアに繋がり、組織のパフォーマンスが向上するという好循環が生まれるのです。
心理的安全性を高めるためには、ネガティブな反応をしないことに加え、「帰属シグナル」を多く出すことが有効です。
笑顔、物理的な距離の近さ、アイコンタクト、相槌といった言葉以外のコミュニケーションが場の空気を作ります。また、会議で参加者が自分の考えを提示する機会が平等にあるか(平等性の確保)も重要です。
役職や経験で意見の扱いを変えると、心理的安全性は下がってしまいます。場の空気を変えたいと思ったら、まずは自分からこれらのシグナルを出してみることが推奨されました。
質疑応答では、組織のワークショップで社長や部長が失敗談を話すことが、参加者の心理的安全性を高めるのに非常に効果的であるという具体的な経験談が紹介されました。
ブレストの落とし穴とその対策
アイデア出しの代表的な手法であるブレインストーミング(ブレスト)にも、実は落とし穴があります。やり方を間違えると、一人で考えるよりも効率が悪くなるという研究もあるのです。その主な要因は以下の3点です。
- 待ち時間での思考停止と話題の固着化: 他の人が話している間、自分の発想が止まったり、場の盛り上がったアイデアに引っ張られて話題が狭まったりする。
- アイデアの自主的な取り下げ: 「さすがにこれは恥ずかしい」「意味がないかな」と思い、思いついたアイデアを口に出す前に取り下げてしまう。
- 他人任せ: アイデア出しが得意な人に任せてしまい、自分で深く考えなくなる。
これらの落とし穴を避けるためには、「個人でアイデアを考える時間」と「全体で考える時間」を交互にとることが有効です。
まず個人で考えた後、それを持ち寄って全体で共有・議論する。そしてまた個人に戻って整理し、再度全体で議論する、というサイクルを回すことで、思考停止を防ぎ、多様なアイデアを取り込みやすくなります。
アイデアを組織や個人に活かす

チームで盛り上がって生まれたアイデアを、その場にいなかった上司や他部署の人にどう伝えるか、という問いも出されました。
相内氏は、アイデアそのものよりも、「どういうプロセスでアイデア検討を進めるか」について事前に合意を得ておくことが最もスムーズに進めるコツだと述べました。プロセスに納得していないと、どんなに良いアイデアでも受け入れられにくいからです。
世代間ギャップをチャンスに変える場づくりについては、「ペアインタビュー」というユニークなアイデアが提案されました。話したいテーマを設定し、お互いに経験や考えをインタビュー形式で聞き合うことで、「なぜその人が今の考えを持つに至ったのか」という背景を理解しやすくなり、相互理解が深まるというのです。
特に年長者は、知らないことを教えてもらうスタンスで若者に関わると、より良い関係性が築ける可能性があると語られました。
個人がアイデアを人生に活かす方法については、「自分がどんな人生を生きたいのか」といった「大元の問い」を意識しておくことの重要性が語られました。問いを明確に持ち続けることで、必要なアイデアが連れてこられることがあるといいます。
また、行き詰まった時ほど「どんな打開策があるかな?」と無邪気に考えてみることを勧められました。選択肢がないと思い込むから行き詰まるのであり、突拍子もないアイデアも含めて幅広く考えてみることで、状況を打開するヒントが見つかったり、気持ちが切り替わったりするからです。
AIとアイデアの未来
AIの進化が著しい現代において、AIとアイデアの関係性についても議論されました。
AIは既存の情報から新しい組み合わせを言葉遊びのように生成することはできるかもしれませんが、人間が考えるような深いレベルでの新結合や、そこに付随するモチベーションや「自分のものだ」という感覚を生み出すことはまだ難しいのかもしれません。
しかし、AIがアイデア発想を支援する可能性も示されました。岩手県釜石市で行われた高齢者向けのワークショップでは、デジタル技術に詳しくない参加者に対し、ChatGPTに釜石市の課題を入力して解決策の事例を調べてもらうという形でAIを活用しました。
これにより、本来インプットがないためにアイデアが出せなかった高齢者の方々が、AIが提供した事例を元に「これが釜石にもあったら便利だな」と発想を広げ、デジタルを使ったアイデアをまとめることができたのです。
これは、AIが情報量を補完することで、人間がアイデア発想の「届かなかった点」に到達できることを示す面白い事例だと言えます。
アイデアを出すのは本当に面白い
質疑応答では、駅前再開発のようなセンシティブなテーマでのアイデア出しにおいて、利害関係者の対立をどう融和させるかという問いに対し、目的(例:街の50年後の幸せ)や視点を長期にずらすこと、関係者ごとにワークショップを分けるといった方法が有効であることが語られました。
また、社外セミナーなどで立場の異なる人がいる場合に匿名性が有効か、という問いには、アイデアの数を出すブレストにおいては匿名性が非常に機能すると回答されました。

さらに、iU大学の卒業生で株式会社推しメーターの創業者、福島氏からは、自身の「推し活」に助けられた原体験から生まれた「推し活」と「何か」を掛け合わせるという事業(星野リゾートやテーマパークとのコラボなど)についてお話があり、自分の「偏愛心」をアイデアと掛け合わせることの強さ、面白さを教えていただきました。
相内氏は最後に、「アイデアを出すのは本当に面白い。日本中で様々なアイデアが生まれたら、この日本をもっと面白くしていける」と締めくくりました。
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今回のセッションを通じて、アイデア発想は特別な人に与えられた才能ではなく、誰でも、そしてどんな組織でも、遊び心と心理的安全性を確保することで、その力を大きく引き出せることが分かりました。
特に、量を出すこと、異質なものと組み合わせること、そして何よりも心理的安全性の高い環境を作ることの重要性が強く印象に残りました。
今回のセッションの内容は、アーカイブ動画でじっくりとご覧いただけます。ぜひ、相内氏の熱のこもったお話や、参加者の皆さんのアイデアに触れてみてください。きっと、明日からの仕事や、もしかしたら人生に、新しいアイデアの種が見つかるはずです!
▼今回のイベントアーカイブはこちら!
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そして、次回のiU渋谷サクラステージゼミも非常に興味深いテーマでお届けします!
次回のiU渋谷サクラステージゼミ vol.04
日時:6月26日(木) 19:00〜
次回は、アップルのWWDC25を現地取材されたレポートを中心に、巨大IT企業の最前線に迫ります。AIの最新動向、そしてGoogleやAppleが直面しているビジネスモデルの転換という大きな潮目。テクノロジーとビジネスの未来を占う上で、非常に重要な内容となりそうです。
AIの進化がアイデア発想や私たちの働き方にどのような影響を与えるのか、そして巨大企業がどのように変化に対応していくのか、今回学んだ「妄想学」の視点も踏まえながら、さらに深く掘り下げていく機会となるでしょう。
ぜひ次回もご参加いただき、最先端の情報に触れてみてください!
参加のための情報等は、追ってご案内します。
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