株式会社大広の取締役執行役員で、長年ブランディングに携わってきた鬼木美和さんが出版した『ファンを集められる会社だけが知っている「ブランド人格」』(時事通信社)は、企業やブランドの見方を変えてくれる1冊です。
鬼木さんに、この本の成り立ちと、今後どのようにして、あらたなブランドを作るか、既存のブランドを刷新していくか、お話をうかがうことができました。
そもそも、なぜ「ブランド人格」なのか?
本書のテーマである「ブランド人格」とは、企業や商品、サービスなどのブランドを、人格のように扱い、理解し、関係性を構築していこうという考え方です。
人格は、「個人の心理面での特性。人柄。または人間の人としての主体」とされていて、企業や商品の人柄が、ブランド人格だと言うことです。
ある意味で、商品やサービス、企業の擬人化のような部分もあるのですが、鬼木さんに聞くと、ブランド人格という考え方を生み出したきっかけは、理解への欲求だったそうです。
「私は、取引をするクライアント企業の皆様のことが大好きになり、ファンになりながらお仕事をご一緒していくことが多かったのです。
その過程で、「企業のことをもっと理解したい」「そのためにはどうすれば良いか?」ということをずっと考えてきました。
以前より、ミッション・ビジョン・バリュー(MVV)、最近ではパーパスという言葉で、どんな企業なのか、どこへ向かうのか、ということを言語化するようになりましたが、もっと距離を近づけるにはどうすれば良いか?と考えたのです。
そこで、「企業を友達だと思うなら」と考えました。
何がしたいのか、何が得意なのか、性格はどうなのか、と置き換えて理解すると、より身近に感じられるようになったのです。
MVVに終わらず、性格や心根、人となりがそこに含まれていき、ひとりの人として統合されていくことで、より理解しやすく、親しみを感じられるようになって行きます。
これが、ブランド人格のきっかけだと思います。」
その上で、仲良くなるなら、自己紹介して、その人のことがわからないと始まらないでしょう、と。企業が自分のアピールしたい部分だけでなく、どんな人なのか、どんな思いを持っているのか、という部分を明らかにしなければ、顧客に好きになってもらえないのではないか、という「そもそも論」が、背景にありました。
マーケティングが変化している
このブランド人格が重要になっていく理由は、マーケティング環境の変化です。
「2024年1月25日に、公益社団法人日本マーケティング協会は、1990年に策定した「マーケティング」の定義を、34年ぶりに改訂しました。 https://www.jma2-jp.org/home/news/916-marketing
これまで(1990年制定)は、売る人と回避との好循環を作ることが、マーケティングの定義でした。2024年の新たな定義は次の通りです。
『顧客や社会と共に価値を創造し、その価値を広く浸透させることによって、ステークホルダーとの関係性を醸成し、より豊かで持続可能な社会を実現するための構想でありプロセスである。』
企業と顧客だけではない、様々なステークホルダーを巻き込んで「関係性」を作るプロセスこそが、マーケティングの定義となってきたのです。
これは、広告会社・大広がこれまで考えて来た、色々な人たちとの関係をより良くすることと同じだと思い、とても嬉しくなりました。
マーケティングも、時代に合わせて進化しているのだと思います。」
マーケティングの定義の中に、価値を共に想像すること、そのプロセス自体が含まれるようになってきました。より企業との関係性が密接になるとすると、企業への理解の深さは、そのまま、関係性、あるいはその先にある価値想像の共同作業に直接影響してくることになるはずです。
企業・ブランドのあるべき姿とは?
企業、ブランドは、消費者とより近づき、協業するという場面が増えていく。そのためには、しっかりと自己紹介し、自己開示を通じて理解してもらいながら、一緒に価値を作り出すパートナーであると認識してもらえるよう努めていく必要が出てきます。
より良い商品を一緒に作っていくためには、顧客が何を価値と感じるかを知る必要があります。そこで鬼木さんは、「顧客価値は、企業が決めるのではなく、顧客自身に尋ねるべきだと考えます」と力強く指摘します。
単に商品やサービスから受けるメリット、支払った金額に対する対価としての価値ではなく、そこには企業や商品、サービスのブランドや、使っている顧客自身の満足度、信頼性、将来にわたる関係性の継続などが含まれていくからです。
しかし、顧客は自分でも気づいていないことが非常に多くあります。それを教えてくれる『誰か』の存在が必要になり、企業は、その代弁者たる『誰か』を見つけ出す必要があります。
その誰かは、インフルエンサーであったり、アンバサダーであったり、企業のことが好きで、一緒に活動を共にしてくれる理解者、応援者になっていくと思います。単なるフォロワーではなく、共に歩く存在を見つけることが、今後の企業やブランドにとっての課題になっていくのではないでしょうか。
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