2026年7月8日22:00からの「週刊アップルノートPodcastライブ」は、夏の話から始まりました。
夕方に少し風があり、30度台から20度台後半へ気温が落ちていく。昔の8月は、たしかにこういう暑さだったのではないか。そんな話をしながら始めたのですが、Appleのニュースもまた、少し前までの「普通」が変わりつつあることを感じさせる内容でした。
今回の放送で扱ったのは、単なる新製品の噂ではありません。
折りたたみスマホ、米国製チップ、EU規制、OSの細かな改善、AI機能の課金、そしてメモリ価格の高騰。並べてみると、Appleがいま向き合っているのは、製品そのものの進化だけではなく、製品を成立させるための条件が大きく変わっている、ということです。
折りたたみスマホは、懐かしさではなく画面設計の再発明
前半で大きく盛り上がったのは、SamsungのGalaxy Unpackedと、折りたたみスマホの話題でした。
今回の予告ビジュアルからは、次のGalaxy Fold系モデルが、従来の縦長フォールドから少し違う方向に進む可能性が見えてきます。いわゆる「パスポートサイズ」のような、折りたたむと持ち歩きやすく、開くと横長寄りの大画面になる形です。
ここで面白いのは、折りたたみスマホが単に「画面が大きくなるスマホ」ではなくなってきている点です。
開いたときの画面比率が正方形に近すぎると、アプリを2枚並べるには便利でも、映像や作業、ドキュメント閲覧では余りが出ます。そこで、もう少し横長に寄せる。つまり、折りたたみスマホの競争は、ヒンジや薄さだけでなく、「開いたときにどのような情報空間になるのか」という設計競争に入っているのだと思います。
そして、話はいつの間にか昔の折りたたみ携帯へ。
ガラケー時代、手首のスナップでパカッと開く動作に、ちょっとした格好よさがありました。パナソニックのワンプッシュオープンや、NECの折りたたみ端末、ドラマに登場した携帯電話の記憶。いまの折りたたみスマホを語っているはずなのに、身体が覚えている携帯電話の作法が自然と出てくるのは面白いところです。
ただし、30万円級になるかもしれないAppleの折りたたみiPhoneで、昔のように遠心力で開くわけにはいきません。ここは、両手で丁寧に開きましょう、という結論になりました。
Appleの折りたたみiPhoneは、1,000万台をどう読むか
Appleの折りたたみiPhoneについては、1,000万台規模を準備しているという観測にも触れました。
この数字をどう読むか。
Apple全体のiPhone出荷台数から見ると、1,000万台は大きすぎる数字ではありません。しかし、初代iPhoneの販売目標も1,000万台でした。当時、Steve Jobsは「携帯電話市場の1%」という言い方をしましたが、実際にはスマートフォン市場の中ではかなり野心的な数字でした。
Appleの強さは、必ずしも市場全体の過半数を取りに行くことではありません。高付加価値の領域で、一定のシェアを取り続け、利益を確保する。その構造が、iPhoneをここまで大きなビジネスに育ててきました。
折りたたみiPhoneも、もし登場するならば、同じ構造で読むべきです。
これは「みんなが買うiPhone」ではなく、「Appleが次の高価格帯をどう定義するか」という製品になる可能性があります。
Broadcomとの契約は、Made in USA以上の意味を持つ
後半の大きなニュースは、AppleとBroadcomの複数年契約でした。
表面的には、米国内でのチップ製造を拡大する話です。しかし、ここで重要なのは、iPhoneやMacの組み立てが米国に移るという話ではないことです。焦点は、通信や接続に関わる重要部品です。
AppleはAシリーズやMシリーズなど、自社設計チップを進化させてきました。しかし、無線や接続領域では、依然としてBroadcomのような外部パートナーが重要です。つまり、Appleはすべてを自社で抱え込むのではなく、自社で握るべき部分と、戦略的パートナーに任せる部分を再設計しているわけです。
ここには、半導体不足への備えだけでなく、地政学リスクへの保険という意味もあります。
Appleのサプライチェーンは、単なる効率化の問題ではなく、安全保障、通商政策、米中関係、そしてトランプ政権下での政治的リスクとも結びついています。いまAppleが進めているのは、製品の中身だけでなく、製品を作り続けるための地盤づくりでもあります。
EUのDMAは、Appleに「地域ごとのiPhone」を迫る
EUでは、AppleがApp StoreやiOSをDMAのゲートキーパーとして扱うことに異議を唱えていましたが、一般裁判所はこれを退けました。
Appleにとって、これはかなり重い話です。
DMAは、競争促進のために、プラットフォームをよりオープンにすることを求めます。一方、Appleは、プライバシーやセキュリティ、子どもの安全、ユーザー体験を理由に、過度な開放には慎重です。
ここで問題になるのは、「オープンであること」が本当にユーザーの利益につながるのか、という点です。
もちろん、閉じすぎたプラットフォームには問題があります。しかし、すべてを開けばよい、という話でもありません。特にiPhoneは、決済、ブラウザ、アプリ流通、生活インフラに深く入り込んでいます。だからこそ、EU側から見れば、米国企業に生活と商売の入り口を握られていること自体がリスクに見えるわけです。
その結果、Appleは地域ごとに異なるiPhone体験を提供せざるを得なくなる可能性があります。
EUでは使えない機能がある。日本では別の法律に対応する。ブラジルではまた違う。これは、Appleにとっても、開発者にとっても、ユーザーにとっても、なかなか厄介な未来です。
Apple Intelligenceは「無料」だけでは済まなくなる
OSのベータ版については、iOS、iPadOS、macOSの新しいビルドで、細かなUI改善が進んでいることにも触れました。Liquid Glassまわりの調整、リマインダーのアイコン、ダイナミックアイランド上のタイマーUIなど、派手ではないけれど、毎日触る体験の改善が積み重ねられています。
一方で、Apple Intelligence Homeの話は、よりビジネス的に重要です。
ホームアプリでカメラ映像を要約したり、自然言語で映像を検索したりする機能は、iCloud+の2TB以上のプランが必要になる見込みです。つまり、Apple Intelligenceは「無料で使えるAI」と説明されることが多い一方で、サーバー側の処理やストレージ、家庭内映像の解析などが絡む領域では、サブスクリプションと結びついていきます。
これは自然な流れでもあります。
AIは魔法ではなく、計算資源とストレージを使うサービスです。オンデバイスで完結する部分は無料に見えても、クラウド側で処理する機能が増えれば、どこかでコストを回収する必要があります。
今後は、Home、Health、Fitness、Creator系ツールなど、さまざまなApple Intelligence機能が、既存のサービスプランにどう組み込まれるのかが注目点になります。
メモリ高騰で、安いスマホの時代が終わり始める
最後に扱ったのが、メモリ価格の高騰です。
中国のスマホ販売が大きく落ち込んでいる背景には、端末の値引きがしにくくなっていることがあります。原価が上がると、販売イベントで大幅値引きをして台数を稼ぐ戦略が取りづらくなります。
これはAppleだけの問題ではありません。
むしろ、利幅の薄いAndroidメーカーの方が影響を受けやすい。これまで「安く買えるスマホ」として成立していた領域が、メモリ価格やAI需要の影響で圧迫されていくと、スマホ市場全体の価格帯が上がっていきます。
そのとき、Appleの価格は高いままなのに、相対的には高すぎなく見える可能性があります。
もちろん、AppleもMacやiPadでは価格改定を行っていますし、今後のiPhone価格も安心はできません。それでも、他社が値引きできなくなる局面では、Appleの価格維持そのものが競争力になることがあります。
高いけれど、値崩れしない。
高いけれど、長く使える。
高いけれど、修理やサポートの見通しがある。
この価値の作り方が、今後ますます重要になっていきそうです。
今週の結論:Appleニュースは、外部環境を読むニュースになった
今週の放送を振り返ると、Appleのニュースは、もはや「新機能が出た」「新製品が出るらしい」だけでは読めなくなっています。
Broadcomとの契約には地政学があります。
EUのDMAには規制と主権の問題があります。
Apple Intelligence HomeにはAIのコスト構造があります。
メモリ高騰には、スマホ市場全体の価格設計の変化があります。
折りたたみiPhoneには、Appleが次の高価格帯をどう作るのかという問いがあります。
つまり、これはApple製品のニュースではなく、Appleを成立させている環境が変わり始めた、というニュースです。
そして、その変化は、私たちが次に買うiPhoneの価格、使えるAI機能、地域ごとのサービス差、スマホを何年使うかという生活感覚に、そのまま降りてきます。
製品を見ることは、企業を見ることです。
企業を見ることは、社会の条件を見ることでもあります。
今週のAppleニュースは、そのことをかなりわかりやすく示していたように思います。
最後に、放送終了間際に突然Geminiがしゃべり出すという、なかなか時代を感じるハプニングもありました。どこで誰が聞いているかわからない。音声アシスタントが増えた時代らしい締め方だったのかもしれません。
また来週も、水曜夜にお会いしましょう。