40代半ばを超えて、年甲斐もなく、バンドの部活動を始めました。
先日、初めてのライブも経験してきました。結論から言えば、「何度やっても、いくつになっても、演奏はやっぱり難しい」ということに尽きます。歌詞は飛びます。マイクから外れます。リズムも怪しい。終わったあとに思い返すと、反省点ばかりが積み上がっていきます。
それでも、不思議なことに、とても楽しい時間でした。

演奏がうまくいったから楽しい、というよりも、うまくいかないことも含めて楽しい。自分の体と声と楽器が、思った通りに動かない。そのもどかしさを、周囲の演奏や会場の空気が少しずつ支えてくれる。ライブとは、音楽の発表会である以前に、人が人前で何かをやってみる場なのだと、あらためて感じました。
演奏してくださったWhite Noseさんをはじめ、ご一緒いただいた皆さん、盛り上げて頂いた愛あふれる皆様、本当にありがとうございました。
そんな演奏熱が少し高まっているところに、JBLの「BandBox Trio」を試す機会がありました。AI搭載のギターアンプであり、Bluetoothスピーカーであり、4chミキサーでもあるという、少し説明に困る製品です。
しかし使ってみると、その説明の困難さこそが、この製品の面白さでした。
現在、GREEN FUNDINGで、クラウドファンディングを展開中。6月30日までですのでチェックしてみて下さい。
ギターをつないだら、1時間が溶けた

まず何よりも、ギターをつないで電源を入れ、ダイヤルを合わせるだけで、ギターの音がきちんと「それっぽく」鳴ります。
この「それっぽく」が、初心者にはとても大事です。
ギターは、音が出れば楽しい楽器です。しかし、いい感じの音が出るまでには、意外と細かな準備があります。アンプを用意する。シールドを挿す。音量を決める。エフェクターをつなぐ。歪みを調整する。空間系を足す。少し弾いて、何か違うと思って、またつまみを回す。
この作業自体が楽しい人もいます。むしろ、そこから先が沼です。
ただ、初心者や久しぶりに楽器を手にした人にとっては、この準備の多さが、最初の壁になります。弾く前に疲れてしまう。音作りをしているうちに、自分が何を弾きたかったのか忘れてしまう。

BandBox Trioは、その壁をかなり低くしてくれます。プリセットを選ぶだけで、クリーンから歪みまで、ギターらしい音がすぐに出てくる。製品ページによると、Trioにはギター用に加えてベース用、バイパスを含む27のプリセットが用意され、本体のLCD画面とノブで調整できます。アンプモデルやエフェクトも内蔵されており、アプリを開かなくても本体側で操作できる点は、演奏の流れを止めにくい設計です。
試しているうちに、気づけば1時間が過ぎていました。
これは危険です。とてもよい意味で危険です。練習をしようと構えたのではなく、音を出していたら時間が溶けていた。楽器にとって、これほど大事な体験はありません。
「うまくならなければいけない」の前に、「もう少し弾いていたい」が来る。BandBox Trioの第一印象は、まさにそこにありました。
BandBoxのAI機能は、「練習までの」面倒を減らす

BandBoxシリーズの大きな特徴は、AIによるステム分離です。
Bluetoothで再生している楽曲を本体内蔵AIでリアルタイムに解析し、ボーカル、ギター、ドラムなどのパートを分離する。必要なパートをミュートしたり、逆に聴きたいパートだけを抽出したりできる、という機能です。製品ページでは、クラウドに依存せず本体内で処理する点、またBluetooth再生曲をそのままマイナスワン音源化できる点が説明されています。
これは、かなり汎用性が高い機能です。
たとえばギター練習なら、原曲のギターパートを消して自分で弾く。ボーカル練習なら、歌声を抜いてカラオケのように使う。ドラムやベースの練習にも応用できる。これまでなら、PCやスマホアプリ、DTMソフト、音源ファイルの準備が必要だった作業が、スピーカー側で完結します。
今まで、楽器やパートごとに音声を分離して、ミュートしたり、自分のパートだけを練習したりするための下準備は、Logic Proに音源を読み込ませてやっていたことでした。ただ音源の曲をかければよいことを考えると、手軽も手軽。もちろん、AI分離の精度については、曲や音源によって得意不得意が出るはずです。ここは継続して試したい部分です。
ただ、ファーストインプレッションとして重要なのは、「完璧な分離ができるか」だけではありません。練習に入るまでの手間をどれだけ減らせるかです。
楽器の練習でいちばん難しいのは、上達そのものではなく、練習を始めることだったりします。音源を探す。テンポを合わせる。キーが合わない。チューニングを変えるのが面倒。こうした小さな抵抗が積み重なると、ギターはケースの中に戻っていきます。
BandBoxは、そこにAIを入れてきました。
つまりこれは、「AIで音楽が作れる」という話だけではありません。AIによって、人間が楽器に向き合うまでの面倒を減らす製品です。ここが、いまのAIガジェットとして面白いところです。
Trioは、Bluetoothスピーカーではなく「小さなPA」です
BandBox Trioをオフィスに置くべきだと思った理由は、ギターアンプとして楽しいからだけではありません。
むしろ、オフィスや学校、イベントスペースで効くのは、4chミキサーとPA的な機能です。


Trioは135W RMS出力、165mmウーファー、25mmシルクドームツイーター2基を備えたモデルです。入力はXLR/6.3mm対応コンボジャックが2系統、6.3mm標準ジャックが1系統、さらにBluetooth、AUX、USB-Cに対応します。4chミキサーを内蔵し、ギター、マイク、キーボードなどを1台にまとめられます。USB-C経由では、PCやスマートフォンと接続して録音にも使えるUSB Audio Class対応です。
これを単なる「AI搭載Bluetoothスピーカー」と呼ぶと、かなりもったいない。
小規模イベント用のPA、会議室用の音響、社内セミナーのマイク、懇親会のBGM、ちょっとした演奏、配信前の音出し、そしてバンド部の練習。そうした用途が、1台にかなり集約されています。
もちろん、本格的なライブハウスのPAとは役割が違います。しかし、オフィスのオープンスペースや、一番大きな会議室に置いておく機材として考えると、ちょうどよい存在です。
普段はBluetoothスピーカーとして使う。イベントではマイクをつなぐ。パーティーではBGMを鳴らす。誰かがギターを持ってきたら、そこに挿す。キーボードやベースもつなぐ。気づけば数人が集まり、軽く音を出している。
この「普段は普通に使えて、たまに場を変える」感じが、オフィス機材としてとてもいいのです。
会社には、少しだけ「余計なもの」が必要です
最近のオフィスは、機能的になりました。
会議室予約、オンライン会議ブース、フリーアドレス、集中スペース、プロジェクトルーム。どれも必要です。働く場所としての合理性は、確実に上がっています。
一方で、合理化されたオフィスからは、少しずつ「余計なもの」が消えていきました。
雑談のきっかけになるもの。誰が使うのかわからない楽器。なぜ置いてあるのかわからないボードゲーム。誰かの趣味がにじみ出たスピーカー。予定表には書かれないけれど、関係性を生むものです。
BandBox Trioは、そうした余計なものとして、とてもよい。
もちろん、普通に考えればオフィスにギターアンプは不要です。会議室にミキサーもいらない。Bluetoothスピーカーなら、もっと小さくて安いものもあります。
しかし、ここで重要なのは、製品単体の機能比較ではありません。
それが置かれていることで、何が起きるかです。
オフィスの片隅にBandBox Trioがある。誰かが「これ、ギター挿せるんですか」と聞く。別の誰かが「実は昔バンドやってました」と言う。昼休みに少し音を出す。社内イベントで一曲やってみる。部署を超えて、人が集まる。
これは福利厚生というより、文化の種です。
会社の中には、意外とギター弾きが潜んでいます。ベース弾きも、ドラマーも、キーボード経験者も、ボーカル志望もいます。ただ、仕事の場では、それが見えないだけです。BandBox Trioは、その人たちを可視化する装置になり得ます。
バンド部活用に、かなり現実的な1台
学校や大学、企業内サークルの部活動用途としても、BandBox Trioはかなり現実的です。
理由は、機材が増えすぎないからです。
小さなバンド練習を始めようとすると、アンプ、マイク、ミキサー、スピーカー、ケーブル、エフェクター、チューナー、メトロノーム、録音機材などが少しずつ必要になります。経験者がいれば整理できますが、初心者だけだと、何を買えばいいのかわからない。
BandBox Trioは、その入口を簡略化します。
ギターやマイクを挿せる。Bluetoothで音源を流せる。アンプモデルとエフェクトがある。チューナー、メトロノーム、ドラムマシン、ルーパーも入っている。バッテリー駆動は最大10時間で、交換式バッテリーにも対応します。つまり、常設のスタジオではない場所でも、音を出す場を作りやすい。
初心者にとって大事なのは、「ちゃんとした機材を全部そろえる」ことではありません。まず音を出して、楽しいと思えることです。
その点でBandBox Trioは、かなり教育的なガジェットでもあります。
音楽教育というと、どうしても正しいフォーム、正しい練習、正しい理論に向かいがちです。それは必要です。ただし、その前に「音を出すと楽しい」という体験がなければ続きません。
BandBox Trioは、そこをショートカットしてくれます。ギター初心者が1時間没頭してしまう。これは、製品レビューとしてはとても重要な事実です。
これは、AIスピーカーではなく「音楽を始めるためのインスタントボックス」です
AI搭載という言葉だけを見ると、またAIか、と思う人もいるかもしれません。
しかしBandBox TrioのAIは、会話をするためのAIではありません。文章を書くAIでも、画像を作るAIでもありません。音楽を分解し、練習しやすくし、人が演奏に近づくためのAIです。
ここが、いまのAI製品のなかでは新鮮でした。
AIが前に出すぎていない。けれど、確かに体験を変えている。人間の代わりに演奏するのではなく、人間が演奏し始めるまでの距離を短くしている。
今回のBandBox Trioの第一印象をひと言で言えば、「ギターが好きになるガジェット」です。
うまくなるかどうかは、まだわかりません。そこは練習次第です。ライブで歌詞が飛ばなくなるかどうかも、保証はありません。マイクから外れないようになるかも、本人の努力にかかっています。
ただ、もう少し弾いていたいと思わせてくれる。
その一点で、BandBox Trioはかなり強い製品だと思いました。
そして、だからこそ提案したいのです。
オフィスのオープンスペースに、1台置いておく。いちばん大きな会議室に、イベント用PAとして置いておく。学校や企業のバンド部用に、最初の1台として置いておく。
すると、ただのスピーカーではなく、その場所に音楽の余白が生まれます。
その余白に、誰かの昔の趣味や、これから始めたい気持ちや、少しだけ人前で何かをやってみる勇気が集まってくるかもしれません。
仕事にも学びにも、そういう余白は意外と必要です。
BandBox Trioは、音を大きくする機材であると同時に、人が集まる理由を少しだけ大きくしてくれる機材なのだと思います。
製品メモ
JBL BandBox Trioは、GREEN FUNDINGで展開されているAI搭載Bluetoothスピーカー「BandBox」シリーズの上位モデルです。4chミキサー、135W出力、AIステム分離、ギター/ベース向けプリセット、マイクエフェクト、チューナー、メトロノーム、ドラムマシン、ルーパー、USB-C録音機能などを備えます。プロジェクトページでは、2026年8月31日終了、2026年9月上旬以降の順次発送開始予定とされています。