折りたたみiPhoneを考えると、折り目、厚さ、重さ、電池、カメラへ目が向きます。僕がもう一つ気にしているのは、音です。

ブック型の端末は、閉じれば縦長の電話として使い、開けば横に広い画面で映像やゲームを楽しみます。画面の長い方向は変わりますが、スピーカーの場所は勝手に移動してくれません。

従来のiPhoneと同じように、閉じた状態の上と下へ受話口兼スピーカーとメインスピーカーを置いたらどうなるか。開いた画面では、二つの音源が上下に並ぶか、片側の半面へ偏ります。大きな画面が左右へ広がっても、音場は同じ方向へ広がりません。

僕の仮説は、折りたたみiPhoneには4つのスピーカー、またはそれと同等に開閉両方で左右の音場を作れる仕組みが必要になる、というものです。

現行iPhoneは、二つの小さなスピーカーで空間を作ります

Phil Schiller explained how spacial audio works on iPhone 11 with top and bottom speakers. photo by @taromatsumura.

iPhone 17と17 Proは、内蔵ステレオスピーカーと空間オーディオ再生に対応します。横向きに構えると、端末の上側と下側にある二つのスピーカーが、画面の左と右へ分かれます。

以前、Appleのオーディオエンジニアに、この小さな端末からなぜ画面より外側へ音が広がって聞こえるのかを尋ねました。そこで説明されたのが、心理音響、英語ではpsychoacousticsと呼ばれる考え方です。

人間は、左右の耳へ音が届くわずかな時間差や音量差などから、音源の方向を推定します。iPhoneは二つのスピーカーから出す音のタイミングなどを調整し、端末の向きとスピーカーの位置関係に合わせて、音がどこから聞こえるかを再現します。

AirPodsのように耳元で行う処理だけではありません。互いに大きさも向きも異なるiPhoneごとに、内蔵スピーカーで空間オーディオを成立させる調整が行われています。褒め言葉として、かなり変態的な作り込みです。

マイクは「声だけ」と「その場全体」を録り分けます

音の入口でも、同じ思想が使われています。

Voice Isolation(日本語UIでは「声を分離」)は、周囲の音を抑えて人の声を優先します。電話やFaceTimeだけでなく、iOS 26ではボイスメモなど対応するアプリの録音でも利用できます。騒がしい場所から、相手へ届けるべき声を選ぶ技術です。

反対に、iPhone 16以降の対応機種は、複数のマイクを使った空間オーディオ収録に対応します。動画ではAudio Mixを使い、撮影後に画面外の音を抑えたり、声を前へ、環境音を周囲へ配置したりできます。

声だけを残すVoice Isolationと、その場の広がりを残す空間オーディオ収録は、逆向きに見えます。しかし共通しているのは、マイクで得た情報から「どの音を、どこに残すか」を計算していることです。

Appleのオーディオ技術は、マイクやスピーカーの数だけでは評価できません。部品の配置、端末の姿勢、信号処理、アプリの編集機能までが一つのシステムです。

振り返ると、2019年のiPhone 11では空間オーディオ再生、2024年のiPhone 16世代では空間オーディオ収録とAudio Mix、その後のiOS 26では録音時の「声を分離」へ進みました。研究してきた技術を、再生、収録、編集の順に主力製品へ広げるサイクルが見えます。

折りたたむと、音の基準線が90度変わります

折りたたみiPhoneはApple未発表で、画面比率の予測にも幅があります。ただ、閉じた縦長の画面を開くと、横に広い画面が現れるという共通点があります。

難しいのは、通話とメディア視聴で必要な音の軸が異なることです。閉じた状態では、耳を当てる上部と、口に近い下部へ受話口やマイクを置くのが自然です。ところがその配置を保ったまま開くと、映像の左端と右端にスピーカーが分かれません。

心理音響処理で音場を広げることはできます。それでも、二つの音源が片側へ寄れば、物理的な左右の距離という材料は減ります。しかも、端末を持つ手が一方の開口部をふさぐ問題もあります。

つまり折りたたみ型では、画面だけでなく「音の基準線」も開閉に合わせて切り替える必要があります。

Galaxy Z Fold8で、すでに「音の軸」はずれました

これは机上の心配ではありません。Samsungが2026年7月に発表したGalaxy Z Fold8は、閉じると10:16、開くと4:3の画面を備え、公式仕様では「ステレオデュアルスピーカー」を搭載します。大画面もステレオも、仕様表にはあります。

ところがThe Guardianのレビューは、縦向きではステレオになる一方、動画を見る横向きではステレオにならないと評価しました。Gizmodoも、二つのスピーカーがカバー画面の上下にあり、開いたタブレット状態では両方とも左側へ寄るため、片側から鳴るモノラルに近く聞こえると指摘しています。

重要なのは、音声データがステレオであることと、画面の左右に対応した音場を感じられることは別だという点です。折りたたみ型では、「ステレオスピーカー」という一行だけで合格とは判断できません。

4スピーカーの答えは、すでにiPad Proにあります

Appleは2017年のiPad Proで、4スピーカーにより、どの向きでも明瞭で豊かなステレオ音声を出せると説明しました。2020年モデルでも、持ち方に合わせて自動調整する4スピーカー構成を明記しています。

折りたたみiPhoneの四隅、あるいは二つの半面へスピーカーを分散できれば、閉じた時と開いた時で使う組み合わせや左右チャンネルを切り替えられます。これはAppleがiPadで長く運用してきた設計の延長です。

ただし、4基は工学的な必須条件ではありません。二つのスピーカーを別々の半面へ対角に置く、音の出口だけを複数方向へ設ける、画面や筐体を振動させる、信号処理で補う、といった別解もあります。

だから発表時に見るべきなのは、数だけではありません。閉じても開いても、映像の左右と音の左右が一致するか。空間オーディオがAirPodsなしで成立するか。持ち方を変えても片側の音が手で消えないか。これらを満たすなら、2スピーカーでも予想は外れです。

それでも僕は、4スピーカーを期待します。大画面を開くことが製品の主役なら、その瞬間に音まで横へ開かなければ、体験は完成しないからです。

折りたたみiPhoneの設計力は、折り目の見えにくさだけでは測れません。開いた瞬間、音の左右まで自然に切り替わるか。そこにAppleらしい統合設計が最もよく表れるはずです。