自民党の税制調査会の会合で、EV課税に対する新たな考え方が示され、また自動車重量税でも、車体が重いEVへの負担額を増やす案が出ています。

EVユーザーとしても、EVに内燃機関がないため、排気量が基準の自動車税が安い、というのは不公平だと感じる一方で、EVの重さを取り上げて高い税率課すのはかなり筋が悪い、と思いました。
結論から言うと、「EVだけ重量課税強化」は
- 道路損傷の理屈に対してターゲットがズレてる
- 既存の重量税と二重取りになりやすい
- 財源効果が薄いのに、EV普及だけは確実に冷やす(=国内自動車産業の国際競争力を確実に潰す)
という3つの理由から、再考すべきアイデアだと考えます。
「EVは重い=道路を傷める」は事実だが、政策根拠として粗すぎる
今回の案で電気自動車(EV)の重さについて指摘があったのでここから考えていきます。
舗装の損傷に車重は思い切り影響します。ざっくり「荷重の4乗」で効いてきます(有名な4乗則)。国土技術政策総合研究所(国総研)も、輪荷重が10分の1なら損傷は1万分の1 という形で説明しています。つまり重い車ほど、道路への損傷の影響は大きくなります。
しかし、科学的に考えてしまうと、ここから導ける政策の結論は「EVを狙い撃ちしろ」ではなくて “重さの主犯(=圧倒的に重い車両)を狙え” になってしまいます。
- 国総研の例だと、輪荷重5tfの車(≒重量20tf)1台が与える損傷に対し、輪荷重0.5tfの乗用車(≒重量2tf)は 1/10,000。要するに 乗用車1万台 ≒ 大型1台 という世界観です。
- ここでEVがガソリン車より仮に 2割重い としても、4乗則なら損傷は 1.2^4 ≒ 2.07倍。
でも「乗用車がそもそも大型に比べて1/10,000」という土俵なので、EVが2倍になっても “1/5,000” になるだけ。道路損傷と重さを論点にするなら、主問題は乗用EVではなく、物流の重量級(大型車)側です。
道路損傷を口実にするなら、まずやるべきはEV課税じゃなくて「重量(できれば軸重)×走行距離」で大型車を中心に精緻化すること。乗用EVをスケープゴートにしても、効果は薄い。
しかし、大型車の課税を増やすことは、輸送コスト増に直結するため、物価高の最中、かなりの悪手になってしまう。だから「重たいEV」という限定が出てきたのではないかと思うのですが、前述の通り、道路修復の財源としてはかなり影響の薄い領域といえます。税金の額については後述。
「EVは重い」は“平均的には”そうでも、EVだけ狙うと簡単に破綻する(重いガソリン車が普通にいる)
「EVだけ重い」みたいなストーリーが成立しない具体例を、メーカー諸元で出します。
- トヨタ ランドクルーザー300:車両重量 2,360〜2,560kg(がっつり重いのに内燃機関側)
- トヨタ アルファード(ガソリン/HEV):車両重量 2,060〜2,290kg、PHEV:2,470kg
- 日産 新型リーフ(B7):車両重量 1,880kg / 1,920kg
- テスラ Model Y:車両重量 1928kg(RWD)〜 2000kg(Performance)
ここで起きてるのは「EV=重い」じゃなくて、“車格が大きい車は駆動方式を問わず重い” です。
EVだけ課税を強めると、同等かそれ以上に重い内燃機関(やPHEV)を素通ししやすくなり、「環境性能(=電動化のための電池搭載)を後ろ向きに進化させる」誘因になります。そのための環境性能割の停止や廃止、という議論になっているのでしょうが…。
駆動方式で線引きする時点でロジックが崩壊してる上、より台数が多く、より車重が重い自動車が、より増えていくので、環境も道路も荒れていく未来が待っています。
そもそも日本には“重量に課税する税”が既にある(=二重取りリスクが高い)
日本には自動車重量税があり、重いほど税額が上がる仕組みが既にあります。
国交省資料の税額表を見ると、例えば乗用車で 〜2t の本則税率は 新車登録時(3年)で30,000円(減免なしの区分だと49,200円)といった具合に、重量で刻んで課税されています。 
一方でEVはエコカー減税で重量税が免税になる扱いがあり、制度は延長されています(EV/FCV/PHV等の免税など)。 
だから、もし「EVの負担が軽すぎて歪み」なら、筋の良い直し方は
- 既存の重量税の減免設計を見直す(=同じ税目の中で調整する)
であって、
- “EVだけ”別建てで重量課税を上乗せ(=二重取りになりやすい)
は制度設計として雑です。
「重量課税強化」をやるなら“新税”より、まず既存の重量税・減免ロジックを統合的に触るべき。その上で、免税をやめて不公平感を取り除けば良いのではないか、と思います。
財源の穴埋めとしても成立しにくい(数字が合わない)
今回の文脈は、「環境性能割」を2年間停止→地方財源に 約2,000億円の穴、代替としてEV重量課税案、という流れです。
ちなみに環境性能割は、二酸化炭素排出性能に対して車両価格の最大3%が課される取得税のようなもので、これが2年間停止されると、2000億円規模の税金が足りなくなる、というのです。これをEV課税で取り返そうというのですが…。
ここでEVの母数を確認すると、次世代自動車振興センターの保有統計で、2024年度末時点のEV合計は358,262台、年間販売台数は6万台でした。
仮にこの2,000億円をEVだけで埋めるなら、
- 200,000,000,000円 ÷ 6万台 ≒ 約334万円/台
というレベルになります。現実的に無理。
逆に現実的な年1〜2万円の“それっぽい”EV課金をしても、税収は6〜12億円規模にしかならず、2,000億円の穴埋めにはほぼ効きません。さらに言うと、揮発油税だけでも国の財務書類ポイントでは 2.1兆円規模です。EVだけ狙い撃ちで「燃料課税減の代替」を作るのも、母数が小さすぎて破綻します。
EV課税は「穴埋め」になりにくいので、単なる「普及阻害」のための施策となり、国内企業が世界の潮流から外れ、EVに対して極めて消極的になっていく税制、にしかなりません。
「米国の制度を参考」がミスリードになりがち(例:オクラホマ)
いくつかのニュースでは、ニュースではオクラホマ州の例として「年1.7万〜35万円」といったレンジが出ますが、これは車両クラス(重量)で幅があるからです。実際、オクラホマのEV年登録料は
- Class 1:$110
- Class 7-8:$2,250
のように分かれています。
つまり「35万円」は普通の乗用EV向けではなく、重いクラス(商用・大型側)込みの上限。このレンジだけを持ってくると、議論の印象を不当に煽れます。 もっとも、中国BYDなどのように、電気自動車のトラックやバスが日本国内で独壇場となっている状況を考えると、こちらも導入阻害の税制としては働きそうです。
個人的には、一律の重量課税+環境課税のハイブリッド
そのため、EVの免税は諦めながら、駆動方式関係なく重量課税+排ガス課税とシンプルかする方向性が良いのではないか、と考えます。制度として破綻しにくい形にするとこうです。
A. 道路負担は「重量(できれば軸重)×走行距離」で、全車共通に
道路損傷のメカニズム(4乗則)に沿うなら、重量だけより 重量×距離 が最低ライン。実務的には「車検時にオドメーターで距離課金(2年分を精算)」が一番現実的で、監視社会化しにくい。ただし商用車に関しては、輸送コストを勘案し、走行距離の部分に優遇すべきだと思います。
B. 内燃機関の外部不経済は「燃料炭素(CO2)+汚染物質」で課税
CO2は燃料に乗せるのが最もズルが効きにくいです。環境省資料の例だとガソリンは2.322kg-CO2/L。NOx/PMなどのローカル汚染は、年式・排ガス規制適合(あるいは実測)に応じて上乗せ(古いディーゼルほど高く、みたいな)にすると“排ガス課税”になります。
こうしていくことで、軽く二酸化炭素と汚染物質の排出が少ないクルマが選ばれるようになり、EVか内燃機関か?という不毛な争いを避けながら、世界中で選ばれるクルマになっていくのではないでしょうか。
簡単にいうと、トヨタがんばれ、です。
EVよりPHEVへの影響を気にした方が良い
EVが「排気量課税を払ってないのが不公平」という感覚は分かる一方で、だからといってEVだけ重量課税強化は、道路損傷・税体系・財政効果のどれで見ても雑。なので上記のような方向性で組み立てみてはどうでしょうか。
繰り返しになりますが、個人的には「EVが免税」というのも、もうやめた方が良いと思います。しかしEVは重たいから道路に悪影響というのは、台数のインパクトが少なすぎて、あまりにもファクトが無さすぎる。
その一方で重量だけの課税にすると、おそらく日本を含む世界中で最適解として目されるPHEV(EVよりエンジン搭載分だけより重い)まで潰すことになってしまいます。
もう少し、科学的、シンプルかつ未来志向の設計にしてもらいたいものです。



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