YouTubeチャンネル #マツムラボ「超解説」のコーナーで、いよいよ日本でテストが始まったテスラ(Tesla)の「FSD(フルセルフドライブ)」について、お話ししました。
その詳細と、日本の社会や私たちのライフスタイルに与える影響、そして今後の課題まで、深掘りしました。
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FSDとは何か?テスラが描く「運転の未来」
まず「FSD(フルセルフドライブ、Full Self Drive)」とは何か。
これは、テスラが目指す自動運転機能の名前です。テスラは、運転者が一切操作しなくても、車が目的地まで自動的に走行できることを目指しており、FSDはその中核を担う機能です。
具体的には、信号の認識、車線変更、そして信号の有無に関わらず複雑な都市部での交差点での判断といった、あらゆる運転操作をAIが担います。
これまでの日本の自動車メーカーが提供してきた「自動ブレーキ」や車線逸脱を防ぐ「レーンキープアシスト」といった運転支援システムは、あくまで運転の「補助的機能」でした。
運転の主体は人間であり、車は安全確保のために介入するという構図です。
しかし、FSDは根本的にアプローチが異なります。
FSDでは、基本的に車がすべての運転操作を行い、人間は何かあった場合に介入するという、人間と自動車の役割が逆転する点が最大の特徴であり、大きなインパクトをもたらします。
FSDの技術的な根幹は「ビジョンベース」であることです。カメラからの情報のみを頼りにAIが状況を判断し、車を動かす仕組みなのです。現在の日本のテストでは「FSD (Supervised)」という形で、人間が常に監視し、いつでも介入できる前提での自動運転テストが開始されています。
私がアメリカで体験したFSDの衝撃
私自身、アメリカで何度もテスラのFSDを体験してきました。
実際に乗ってみると、一時停止でしっかり止まる、周囲の歩行者を気遣って徐行する、自転車を避けるといった、まるで人間が運転しているかのようなスムーズな走行に、毎回驚かされます。


アメリカではすでに「ロボタクシー」の実験がほぼ実用段階にあり、テスラ車が既存の車両を使って無人で人を目的地まで運ぶサービスが実現しつつあります。
Uberドライバーの中には、FSDモードで走行しながら、自分は運転操作をせずに乗客との会話を楽しむという様子を見せてくれる方もいます。このように、移動の概念が大きく変わる体験が、すでにアメリカでは日常になりつつあるのです。
日本市場でのFSDテストが持つ意義と期待
いよいよこのFSDが日本でもテストを開始します。
日本は中国、アメリカに次ぐ世界で3番目の自動車市場であり、この地でFSDがテストされる意義は非常に大きいと考えています。
特に、日本社会が抱える喫緊の課題への解決策となり得る可能性を秘めています。
- 過疎地域・郊外のモビリティ確保: 都市部では公共交通機関が発達していますが、人口減少が進む地方では、公共交通網の縮小が深刻化しています。現状300万〜400万円程度のテスラ車が自動運転サービスを提供できるようになれば、これらの地域の移動ニーズを満たし、社会に大きなインパクトを与えるでしょう。
- 高齢者の移動問題と交通事故削減: 運転免許の返納が進む中、高齢者の移動手段の確保は社会的な課題です。FSDのような自動運転技術は、この問題の一つの解決策となり得ます。また、高齢者による操作ミスや、駐車場での衝突、交差点での判断ミスなど、日常的に報告される交通事故の削減にも貢献する可能性が期待されます。人間が運転するよりも機械が運転する方が事故を減らせるのか、という議論は続くでしょうが、FSDによる移動は、確実に事故を減らす可能性を秘めていると私は考えています。
- 都市部と地方での実用性の違いへの対応: 日本の都市部は特に、道が狭く、複雑な交差点が多いという特徴があります。FSDが、こうした高密度で複雑な日本の状況をどのように学習し、対応していくのかは非常に興味深いポイントです。
テスラの競争優位性:ソフトウェアとデータの力
日本の自動車メーカーも、日産の「プロパイロット」やトヨタの運転支援システムなど、高速道路における「オートパイロット」レベルの技術は十分に実現できています。
私自身もテスラ車のオートパイロット機能で、高速道路ではインターチェンジ間をほぼ介入なしで走行する体験を何度もしています。
例えば、東京から甲府、そして諏訪まで、オートパイロットを入れっぱなしで快適に移動できた経験は、その便利さを如実に物語っています。
しかし、テスラが決定的に一歩進んでいる点があります。それは、今すでに道路を走っているテスラ車が、ソフトウェアのロック解除だけでFSDに対応できる、という点です。
つまり、新しい車に買い替えることなく、ソフトウェアアップデートだけでFSD機能を手に入れられるのです。
この「実用化のスピード」においては、日本メーカーは遅れを取る可能性が十分にありますし、アメリカではすでにこの差が顕著になっています。
また、EV(電気自動車)と自動運転技術の相性は非常に良いと言えます。テスラ車はどのモデルも動力性能が高く、FSDによる自動運転時も快適で、周囲の流れに乗り遅れないスムーズな走行が実現できるという、基本的な車の性能の高さもFSDの快適な利用を後押ししています。
そして何より重要なのが「データ」です。
複雑な交差点での振る舞い方など、プログラミングだけでは対応が難しい状況が多々あります。テスラは日本国内でも、まだ台数は少ないとはいえ、実際に走行している車両から日々膨大なデータを収集しています。
頻繁に走行する場所については、すでに人間が運転している状態での学習が進んでいると考えるべきでしょう。このデータ収集量とそれをAI学習に活用する能力において、テスラは圧倒的な優位性を持っていると私は見ています。
テスラのブランド価値の変化と私たちの「移動」の未来
イーロン・マスク氏は、X社やAI企業X AIを傘下に持ち、「Grok」などのAIも展開しています。
テスラは単なる自動車メーカーというよりも、「移動」を最適化するテクノロジー企業へとそのブランド価値を大きく変化させています。
FSDや無人タクシーとしてのロボタクシーは、その中核をなすものと言えるでしょう。FSDが世界中で実用化されれば、テスラ株にとっても大きな追い風となるはずです。
私自身、高速道路の大半をオートパイロットで運転するようになって、車の運転に対する価値観が大きく変わってきました。
若い頃は運転そのものが楽しかったのですが、今では「移動」が目的化しつつあります。FSDやオートパイロットがさらに進化すれば、移動の時間は単なる「苦行」ではなく、より快適で、あるいは「移動そのものを楽しむ」時間へと変化するでしょう。
例えば、渋滞中に映画を見たり、読書をしたりと、移動の質を全く新しいものへと変える可能性を秘めているのです(ただし、今はまだ監視が必要な「スーパーバイズド」段階ですが)。
このような変化は、タクシーやシェアモビリティ、カーサブスクリプションなど、モビリティ全体のあり方にも良い影響をもたらすと期待しています。
乗り越えるべき課題と日本の現状認識
しかし、日本でのFSD導入にはいくつかの懸念点や課題も存在します。
- 日本の道路交通法への適合: FSDが日本の法律に適合するためのテスラの対応と、自動運転に対応する法改正の双方のアプローチ、つまり「双方向の歩み寄り」が必要です。
- 社会受容性: FSD搭載車が事故を起こした場合の責任問題や、事故率に関するデータ不足は、社会的な不安を生む可能性があります。万が一、FSD車が関わる大きな事故が報道されれば、「ほら、やっぱり」という社会的な反応が起こりかねず、その受容性を高めるにはさらなる安全性の確立と情報開示が求められます。安全性を確実なものにするためには、道路状況データやインフラからのデータ連携が不可欠でしょう。
- 日本の複雑な道路環境への対応: 日本の細い道、細かい道、そしてトリッキーな交差点などをAIがどのように学習し、問題なく対応していくのか、実証実験のデータが待たれます。
- 労働市場への影響: 自動運転によって仕事が減るのではないか、という懸念もあります。タクシーのような純粋な運送業は減る可能性はありますが、同時に、AIの学習やシステム対応、新しいモビリティサービスの開発など、新たな仕事も生まれるでしょう。これは他のテクノロジーやAIの進化と同様の現象と捉えることができます。
テスラに問い合わせたところ、現段階では日本でどの車両がFSDに対応し、いつ運用が開始されるかについては未定。「テストを始めるだけ」以上の具体的な情報は得られませんでした。
法改正や安全確認を経て、早くても数年以内の導入が期待されるというのが現状認識です。
しかし、ここで私たち日本人が認識しておかなければならない重要な事実があります。それは、日本はFSDの導入において、アメリカや中国に比べて既に数年単位で遅れを取っているということです。
今テスラに乗っている多くの人は、既存のハードウェアでFSDを楽しめるようになるはずですが、法律などの整備が追いついていないのが現状なのです。
このままでは5年、10年単位での遅れに繋がりかねません。
未来への提言:今から考え始めること
FSDが日本で本格的に普及するまでには、まだ時間がかかるかもしれません。
しかし、未来の移動、未来の安全、そして自動運転のあるライフスタイルがどのようなものになるのか、今から真剣に考え始める必要があります。自動運転のEVが私たちの生活を根底から変えるのか、その議論に今後も注目していきましょう。



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