親になれば当たり前とも言える『勉強しなさい』『宿題やったの』といった声かけの世界から、『楽しかったの?』と問いかける未来が訪れたら、どんなにステキだろうか。
CPOプロジェクトからは、そんな期待を得ることができました。
「Chief Playful Officer(CPO)」という聞き慣れない肩書を持つ子どもたちが企業で、大人とともにアイデアをぶつけ合う。

株式会社miraiiが2025年4月24日に開催したイベントで、Panasonicや清水建設との間で既に実施された事例とともに披露されたこの構想「CPOプロジェクト」は、個人的に、複数年にまたがるテーマとしている「Intergenerational Innovation」(世代を超えた革新)を体現するプロジェクトとして、高い関心を寄せていました。
イベントレポートの記事はこちら。

私自身、テクノロジーとデザイン思考を研究する立場から、CPOプロジェクトに対して5分間の応援スピーチを行いました。
創造性は、教育で、死ぬ
1968 年、NASAの依頼で研究者ジョージ・ランドとベス・ジャーマンが開発した「発散思考(divergent thinking)テスト」は、もともと宇宙開発エンジニアの創造性選抜のために作られました。

しかしランドは好奇心から同じテストを3〜5歳の幼児1600人に実施し、その後10歳・15歳でも追跡。結果は5歳で98 %、10歳で30 %、15歳で12 %、成人ではわずか2%が“創造的天才”レベルに該当したという衝撃的な数字でした。
これは1992年の著書『Breakpoint and Beyond』と2011年のTEDxTucson講演で広く紹介され、現在も「NASA の創造性テスト」として語り継がれています。

教育や社会経験が増えるほど、私たちは固定概念に縛られやすくなります。企業がイノベーションに苦戦する背景には、この「創造力の摩耗」が横たわっています。
CPO派遣プロジェクトは、まさに未来からのイノベーターである子どもたちを企業に迎え入れることで、企業の内外において、思考をリセットする道筋を示しています。

CPOプロジェクト、3つの意義
企業側の意義は3つあります。
- 子どもから投げかけられる、素朴な疑問からの気づきと学び
子どもが投げかける「それって本当に必要?」という素朴な疑問がビジネスの前提を壊し、停滞した議論を一気に動かします。 - アルファ世代との直接対話
第二に、アルファ世代と直接対話することで、将来の顧客であり人材でもある彼らの価値観を肌で理解できる点です。 - 組織における心理的安全性の向上
第三に、子どもの自由な発言を歓迎する文化が社内の心理的安全性を高め、大人同士のコミュニケーションを活性化させます。
子どもを社会で育てる手段に
一方、子どもたちにとっても学びの機会は計り知れません。
自分のアイデアが真剣に扱われる経験は、自己肯定感や挑戦意欲を大きく伸ばします。さらに、教室では味わえない実社会の課題に向き合うことで、探究心や協働スキルが養われます。
年齢も立場も異なる大人と協働する経験は、多様性を尊重する姿勢を自然と育むことでしょう。
この部分が、「Intergenerational Innovation」の象徴的なシーンである、と個人的には位置づけています。
こうした世代間の共創は、社会全体にも波及効果をもたらします。複雑化する課題を前に、単一世代の知恵だけでは解決が難しい場面が増えました。
子どもと大人が対等に知恵を出し合うモデルは、年齢による「知のサイロ」を解体し、持続可能な社会を築くための基盤になります。
Playfulをいかに取り入れるか?
Intergenerational Innovationとともに、重要なキーワードとして位置づけているのが「Playful」です。
日本語で直訳すると「遊び心がある」になりそうですが、ビジネスの文脈で言うと、組織開発や働き方改革では「創造性を加速する文化的潤滑油」というべきでしょうか。
遊び心が固定観念を崩し、発想転換を促すという研究報告が増えていますし、「遊びの要素を取り入れた職場文化は戦略的イノベーションの鍵」と述べられるようになりました。
私たちが「遊び」と呼ぶものは、単なる息抜きではなく、システムに柔軟性をもたらす余白です。歯車やハンドルにわずかな遊びがあるからこそ、大きな負荷にも耐えられるように、組織にも遊び心が必要です。
CPOが社内に持ち込むのは、この余白そのもの。遊び心を原動力に、固定概念を打ち破るエネルギーが湧き上がります。それはイノベーションを加速させるだけでなく、組織文化をしなやかに変える力となります。
miraiiのCPOプロジェクトページにも、コメントを寄稿しました。こちらもあわせて、ぜひご覧下さい!
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